教育国際化の試み

オンライン授業による国際化の試み

新型コロナ感染拡大の影響で、2020年以降は、全国の大学でオンライン授業が広がりました。オンライン授業には、場所や時間の制約を乗り越えるという強みがあります。東京都立大学経済経営学部では、オンライン授業の特性を生かし、海外在住の研究者が、最先端の知識を本学の学生に英語で講義する試みを実施しました。

経済経営特別講義 <2021年度冬季集中>

「Industrial Organization and Price Analysis」
高橋 悠也 先生

(米国ワシントン大学経済学部)

この授業では産業組織論の中心となるモデル・トピックを議論します。例えば、競争と市場構造、独占、寡占、製品差別化、参入と退出、カルテル、動学的消費者などの話題が含まれます。とりわけ、私の講義ではこのようなトピックの実証的な側面に重点を置きます。需要と供給の推定、実証的にどのようにカルテルを見抜くか、などです。

講師の先生の感想

参加者の皆さんはとても優秀な上に、モチベーションも高く、講義をしていて、刺激的で楽しかったです。非常に貴重な経験をさせていただきました。実証的産業組織論という、主にアメリカとヨーロッパで発展してきた分野を日本で教えさせていただいたので、自分のキャリアにとってもとても貴重な機会になりました。いつかは日本でin personでレクチャーができる日が来るのではないか、と楽しみにしています。

講義を受けた学生の感想

独占や寡占が社会に及ぼす影響について興味があり、履修しました。授業内容は、理論だけでなく、実例や最新の研究成果が紹介されていて、興味深かったです。課題の確認では、先生との対話形式だったので、理解しづらい部分や疑問に思ったことを気軽に質問することができ、理解を深めることができました。

「Energy: A Global Economic History」
新 広記 先生

(クイーンズ大学ベルファスト)

エネルギーは現代の社会経済活動を支える重要な資源であるだけでなく、地球環境とくに気候変動との関連でグローバルな議論の焦点となっているトピックですが、歴史研究の領域としては比較的新しい部類に入ります。私自身がエネルギー史を専門に研究するようになったのは10年ほど前からで、これまでマンチェスター大学持続可能な消費研究所、ロンドン大学バークベック校、英国科学博物館においていくつかの研究プロジェクトを行ってきました。現在は北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストにおいてエネルギー史や環境史の分野での研究教育活動を続けています。エネルギーの歴史研究を通じ、今日の環境や資源に関する様々な問題の理解や解決への貢献を行うことが私の研究動機であり、歴史研究者の立場から現代エネルギー問題についての発言も行っています。

全12回の講義では、先史時代から現代にかけてのエネルギー史概観という体裁を取りつつも、私の研究関心である、歴史と現代的な問題との交錯に重点を置いた話をしました。たとえば植民地主義時代の経済開発の歴史が、現在の脱炭素化の議論における国際的な分断をもたらした遠因となっていることや、環境問題が化石燃料に依存した近代経済発展のなり立ちと深く結びついた問題であることも講義では論じました。

講師の先生の感想

英国やヨーロッパ諸国では、気候問題やエネルギー問題を自分たちの将来に関わる実際的な課題として学び、それらについて発言している高校生、大学生などの若い世代と出会うことは珍しくありません。私の集中講義に参加した都立大の学生たちも、現代的な問題に対する関心の延長としてエネルギーの歴史に興味を抱いた受講者が多かったようです。オンライン授業の性質上、受講者たちとの直接の交流は叶いませんでしたが、提出課題の英文エッセイからは学生たちがそれぞれの関心にもとづいてエネルギーの問題と向き合ってくれたことが伺えました。

国内資源に乏しい日本におけるエネルギーの状況や将来について考える際、国際的視点は不可欠です。さらにエネルギー資源の国際的移動や気候変動の国境を超えた影響をかんがみれば、エネルギーをめぐる地理的・歴史的文脈の理解は、今後の国際的な対話にとって必要不可欠な知識であるとすら言えます。今回の講義を通じて得たエネルギー史へのグローバルな視点が、今後の学生生活そして社会生活において受講生の皆さんがエネルギーの将来を考える際の一助となれば幸いです。

講義を受けた学生の感想

経済史にもともと興味があったため、今回は経済史をエネルギーという切り口で学ぶというのが面白そうと思い、受講を決めました。新先生は実際にイギリスの大学で授業をされている方なので、英語での授業に初めは苦戦しましたが、質問にも丁寧に答えていただき、実際に海外で授業を受けている気分を味わうことができました。将来は国際的に活躍したいと考えているため、とても自分の力になったと感じた授業でした。